中国企業の動き
アジア圏における水素自動車めぐる現状として、まずは、中国における状況を見てみましょう。
中国では、2019年から自動車メーカー(乗用車)の平均燃費と新エネルギー車クレジットの並行管理弁法が実施され、ガソリン、ディーゼルなどを燃料とする乗用車を年間3万台以上生産もしくは輸入・販売する企業は、一定比率の新エネルギー車(プラグインハイブリッド車、電気自動車、水素燃料電池自動車を指す。以下、NEV)を生産または輸入・販売することが求められています。
中国は国家レベルの計画として、2016年10月に「省エネ・新エネ自動車技術ロードマップ」、2018年2月に「中国製造2025重点領域技術イノベーショングリーンブック技術ロードマップ(2017)」を発表している。2020年、2025年、2030年までの水素ステーションやFCVの導入、技術開発などに関する目標を掲げ、2009~2012年に電動化推進のために一定数の都市で公用車などへのEVやPHVの導入を図った「十城千両」(注1)のFCV版が2019年内にも実施されるとの報道もあります。
こうした状況に対して、中国の各地域でも、10以上の都市で水素産業に関する発展計画がある(表1、2参照)。計画によっては、方針のみで導入目標など具体性がないものもあるが、以前から水素産業の発展に取り組んでいる広東省仏山市、江蘇省張家港市などの発展計画は50~100ページに及ぶ詳細な内容で、現状分析や発展に向けた道筋を明らかにしています。
まず、中国での水素自動車をめぐる現状を見てみましょう。
中国政府は産業立国を目指して、2015年に国務院より「中国製造2025」が発表された。これには、2025年までに中国を先進工業国にすることを目標として、強化をはかる10大産業を示しています。この中には自動車産業が含まれていて、これを受けて、2016年11月には、中国汽車工程学会が「中国新エネルギー・スマートカー技術ロードマップ」を策定した。このロードマップには、自動走行や電気自動車(EV)に加えて、燃料電池自動車(FCV)と水素ステーションの普及目標も示しています。この目標は具体的には、2020年に燃料電池自動車(FCV)(FCバスを含む)を5000台、そして、2025年に50000台、2030年に100万台としています。水素ステーションは、2020年に100ヶ所、2025年に300ヶ所、2030年に1000ヶ所としています。
2017年には、国家発展改革委員会、工業情報化部、中国科学技術部による「自動車産業中長期発展規画」が発表された。ここには、新エネルギー車(new energy vehicle:NEV)の普及が挙げられ、燃料電池技術に関連した、中国のサプライチェーンの構築が掲げられています。
公共交通機関での導入
日本の公共交通機関での導入事例を見てみよう。
京浜急行バスは2019年3月に、民間事業者で初導入となる燃料電池バス「SORA」 の運行を開始しました。
「SORA」は、大井町駅西口からお台場地区を結ぶ循環路線で運行しており、この循環路線は1日あたり約30便で、そのうちの5便が「SORA」で運行されています。
燃料電池バス導入に際して、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。
「燃料電池車は水素と空気中の酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーでモーターを回し走行する。化学反応で発生するのは水のみで大気汚染の原因となるCO2(二酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)、PM(粒子状物質)などは全く排出します。同じく環境対応車としてEV(電気自動車)バスがあるが、航続距離や充電時間の関係でまだ実用的ではないと考えています。一方、燃料電池車は水素ステーションが必要であることと車両価格が高いというデメリットはあるが、「SORA」が運行している船の科学館線で、岩谷産業の有明水素ステーションが利用でき、国、東京都、トヨタの協力により導入することができた。」と関係者が明らかにしています。
日本企業はどう関わって行くべきか
日本は、燃料電池および燃料電池自動車(FCV)の関連技術の国別特許出願数では、世界のトップを占めています。
日本企業は世界に先駆けて、2009年には家庭用燃料電池(エネファーム)を、また、2014年には燃料電池自動車(FCV)を、市場に送り出しました。
このように、現時点で、日本は水素利用技術に関して世界最先端であるといえるでしょう。
燃料電池自動車(FCV)の普及に向けて、日本では2002年からJHFCプロジェクト(水素・燃料電池実証プロジェクト)が行われています。水素・燃料電池自動車を公道で走らせ、水素ステーションで水素を供給し、実用化に向けた性能評価や課題抽出を行っています。また、規制見直しや標準化のためのデータ取得、理解促進活動を行っています。
また、水素社会実証プロジェクトが日本各地で実施される中、最大の実証プロジェクトとして、東京2020オリンピック・パラリンピックがその舞台に行われようとしている。
世界の注目が集まるオリンピックは、日本の水素技術をアピールする絶好の場であり、水素関連企業にとっては、最新の技術や製品を披露する展示会会場にもなるだろう。
東京都は「水素社会の実現に向けた東京戦略会議」を立ち上げ、水素エネルギーの普及に向けた具体的な取り組み、数値目標を掲げています。
東京オリンピック・パラリンピックでの活用に向けた2020年までの目標値は次のとおりです。
・燃料電池自動車(FCV) 6000台
・FCバス 100台以上
・水素ステーション 35ヶ所整備
・家庭用燃料電池 15万台
大会運営用の輸送手段として、FCVやFCバスを活用し、大会期間中の競技施設や食堂施設には大型燃料電池を設置し、選手村の宿泊棟には家庭用燃料電池を設置して、熱と電気を供給することになります。
東京2020オリンピック・パラリンピックが日本における水素社会実現への布石となるか、期待が高まっています。