住宅・建築業界における水素エネルギーに関する動向
建築や住宅からの二酸化炭素排出量は年々増加傾向を示しています。日本の部門別二酸化炭素排出量の推移を見てみると、業務その他部門では、2013年度をピークに若干の減少傾向が見られるものの、ほぼ横ばいが続いています。
平成21年から24年度に行われた、国土交通省総合技術開発プロジェクト「低炭素・水素エネルギー活用社会に向けた都市システム技術の開発」では、エネルギー消費時に二酸化炭素が発生しない水素に着目し、現状に対して、50%の削減を可能とする都市システム構築を目的として、水素の安全性、環境性能に関する技術開発にとりくんだ事例があります。
また、建築・住宅における二酸化炭素発生量を大幅に削減するためには、省エネの推進とともに、抜本的なエネルギー需給のあり方そのものを見直す必要があるといえます。
エネルギーマネジメント住宅「スマートハウス」の登場
大手ハウスメーカーは2011年、つぎつぎと「スマートハウス」を市場に投入しました。スマートハウスとは、IT(情報技術)を使って家庭内のエネルギー消費が最適に制御された住宅のことであり、具体的には、太陽光発電システムや蓄電池などのエネルギー機器や家電、住宅機器などの稼働をコントロールし、エネルギーマネジメントを行うことで、CO2排出の削減を実現する省エネ住宅のことを指します。省エネ設備を備えた住宅がエコ住宅であるのに対し、エネルギーマネジメントシステムで最適化されたエコ住宅に「スマートハウス(賢い住宅)」という呼び名がつきました。
このスマートハウスの要となるのが住宅用蓄電池です。太陽光発電や燃料電池などで発電した電力や料金の安い夜間電力を住宅用蓄電池に蓄えれば、必要なときに使用することができます。
住宅用燃料電池の先駆けとして、2009年に、日本の石油・ガス各社が「エネファーム」を発売しました。これは、当時、世界初の家庭用燃料電池(コージェネレーション・システム)として世に送り出されたものです。
都市ガスやLPガスなどから水素をつくり、燃料電池で発電し、さらに発電の余熱で給湯までまかなうというすぐれた設備で、発売当初は330万円だったのが、その後半分程度の価格になり、さらに補助金が適用されるなど購入しやすくなっています。
このように、すでに私たちの身のまわりには燃料電池が活躍しています。燃料電池は、クリーンな水素エネルギーを使って電気をつくる、未来の水素社会の実現には欠かせないものと言われています。更に蓄電池の高性能・低価格化が、今後の水素社会の大きな追い風になっています。
V2H(Vehicle to Home)〜クルマで蓄えた電気を住宅に〜
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に搭載された電池を住宅用蓄電池として活用するための実証実験も始まっています。
V2H(Vehicle to Home)とは、クルマに蓄えた電気を住宅に使うしくみのことです。
太陽光パネルで発電した電力のうち、家庭内で利用しない分をクルマのバッテリーに蓄えておくことで、必要な時に自然エネルギーを自宅用の電力やクルマの電力として無駄なく利用し、エコな暮らしが実現します。
また、万が一、停電や震災などで一般の電力供給がストップしてしまった場合でも、駆動用バッテリーから電力を取り出して、家の電力に使えるので災害時の備えとしても安心です。
このスマートハウスの一段上を行くのが、水素エネルギーを使った住宅です。蓄電池に供給するエネルギーを水素由来のものにすれば、さらなる低炭素化につながります。
鳥取県で行われた実証実験で、鳥取ガスグループの敷地内にスマート水素ステーションと太陽光パネルを設置し、太陽光で発電した電力から水素を製造し、燃料電池自動車に供給し、敷地内のモデルハウスの展示場をスマートハウス化して、燃料電池や燃料電池自動車から住宅へ電力供給を行うなど、環境に優しく、快適でスマートな暮らしを支える仕組みが体験できる施設がオープンしました。
このように、住宅から都市規模への広がりを持った水素社会の実現も、そう遠くない未来に実現するかもしれません。