水素先進国に学ぶ ドイツ編

  1. topics

1.ドイツの電力事情

ドイツの電力事情は、自国に豊富に埋蔵されている石炭、褐炭を利用した発電が主力で、石炭と褐炭の合計では全発電量の内、1990年で57%、2018年で45%と約半分を占めています。残りの約半分は時代と共に変化しています。当初は石油が中心でしたが、1970年代の2度に渡るオイルショックにより原子力にシフトしました。しかし、1986年のチェルノブイリ原発事故により原子力から天然ガス、再生可能エネルギーにシフトしています。

再生可能エネルギーの全発電量中の割合は1990年では僅か約4%でしたが、2018年には約26%にまで伸びています。2018年の再生可能エネルギーの内訳は、風力が約9%、バイオマスが約7%、太陽光が約6%です。

ドイツは北部に再生可能エネルギーである風力、太陽光の発電設備が多く、南部に電力を多く消費する工場が存在しています。風力と太陽光は季節、気象により発電力の変動が大きいですが、南北を結んでいる送電網の容量が小さいため北部で製造した再生可能エネルギー由来の電力を有効に利用できないとう問題が存在していました。

2.ドイツにおける水素の用途

北部で製造する再生可能エネルギーの内、送電網に連系できない余剰分を有効に活用する手段としてドイツでは水の電気分解により水素を生成しています。電気は貯蔵するのが困難だが、水素は比較的安価に貯蔵、輸送が行えるためです。生成した水素はドイツ国内に張り巡らされた水素ガスパイプライン網(2017年時点で約3,000km)にて工業地域に供給されています。需要地では純水素のまま利用するケースもあれば、天然ガスと混合して使用しているケースもあります。

再生可能エネルギーで製造した電気をガスとして利用する手法は、Power to Gas の略称でP2Gと称されていますが、水素パイプライン以外では大きく4つの分野で普及を進めつつあります。

①ハイタン

ハイタン(Hythane)は水素(Hydrogen) とメタン(Methane)の造語です。これは水素パイプラインより遥かに整備が進んでいる天然ガスパイプラインに10%程度の水素を注入するというものです。パイプラインガスの発熱量等が需要家にとって影響がないか、高い圧力で運用しているパイプラインの材質にとって水素脆化の懸念はないかが主な課題でして挙げられます。

②メタネーション

メタネーション(Methanation)とは、触媒を介して水素と二酸化炭素を反応させてメタンを得る化学プロセスです。触媒の長寿命化と省エネルギー化というコスト面での課題を改善するべく研究が進められています。

③燃料電池自動車

水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV)を普及するべく水素ステーションの普及に取り組んでいます。この分野は日本の方が進んでいる状況です。普及するかどうかは、車両と水素ステーションの価格、燃料としての水素の値段に注目が集まっています。再生可能エネルギーが余剰となっているドイツ北部の都市部を中心に水素ステーションの普及が進むと考えられます。ドイツの自動車メーカはFCVの開発で後れを取っていましたが、BMWはトヨタ自動車とパートナーとなり、Audiは韓国の自動車メーカの技術を導入することが決まっています。

④燃料電池列車 

フランスの重電メーカであるアルストム(ALSTOM社)は燃料電池を機関とした鉄道車両を開発しました。一回の水素充填で約1,000kmの走行が可能であり2018年から2両の商業運用が開始されています。2019年からは路線が延伸され、2021年からは新たに14両が追加投入される予定となっています。 

3.日本に適用できる可能性のあるドイツの取り組み

ドイツで進めている内容は日本にとっても大いに参考になるでしょう。ドイツの取り組みをどのように日本で展開するか、検討してみます。

①ハイタン

日本の都市ガスは原料のLNGを長期契約の関係で高い値段で購入しています。再生可能エネルギー由来の水素のコストが低減すれば都市ガスに水素を注入することはメリットが出る可能性があります。また、送電網が脆弱、あるいは送電網が整備されていないエリア(離島等)はそもそもエネルギーコストが高いので再生可能エネルギー(電気とP2Gによるガス)の普及はより進めやすいのではないでしょうか。

②メタネーション

日本のメーカもメタネーションの触媒を研究しています。メタネーションを成立させる触媒以外の要件は、もう一つの原料となる二酸化炭素を低コストで安定して入手することにあります。二酸化炭素は製鉄所、石油精製所、石炭火力発電所から多く排出されています。これらの工場はいずれも大量の海水を使用する関係で海に面しているため大規模な洋上風力発電設備を設置することが有効と考えられます。

③燃料電池自動車

FCVの開発は日本が最も進んでいると考えられますが、車両と水素ステーションの価格を低減することが普及のファクターとなります。日本の自動車メーカが、今となっては日本の産業で世界をリードしている数少ないこの分野を成長させるために先行投資する覚悟を期待しましょう。

水素ステーションの建設コストは法規制と補助金の適用条件の関係で非常に高い建設費となっていますが、先進しているアメリカの事例に倣えば抜本的なコストダウンが可能です。

④燃料電池列車

日本には電化されていない鉄道網が多くあります。送電網が十分でないエリアに再生可能エネルギー由来の電気を利用した水電解による水素製造プラントを設け、そこで得た水素を燃料電池列車の燃料とすれば、ディーゼル機関車の排ガスと騒音からも解放されるなど、大きな可能性を秘めています。

JR系の電化率を見ると、JR北海道が約20%、JR四国が約30%と非常に低い状況です。いずれのエリアも、林業が盛んなため高い密度のバイオマスがあり、強い風を得られる海岸線を豊富に保有することから、より安価なバイオマス発電、風力発電の実現が期待できます。

燃料電池車両については2006年にJR東日本が開発した車両がすでに試運転まで完了しています。また、アルストム社と同等の走行距離が実現可能と考えれば、鉄道用の水素ステーションは既存の車両基地に設置するだけで十分賄えると考えられるでしょう。

最後に水素先進国のドイツと日本を比べて、日本が進んでいる部分もあり、今後は日本はもとより世界で水素によるエネルギーの普及が求められてくるようになるでしょう。

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